(1)思春期と性

(1)思春期と性

ポイント

  • 包括的性教育とは性をめぐる様々な要素を含む教育であり,「性と生殖に関する教育の国際標準」への未到達が指摘される.
  • 10代に必要なヘルスリテラシーとして,性の自認,適正体重,ワクチン接種,包括的性教育などが重要であると認識する.
  • 学校教育を主軸に,教員・医療機関・地域,誰でも相談できる体制を構築する.
  • 1)方法

    • 「性と生殖に関する教育の国際標準」では,若者に対する性と生殖に関する健康教育の重要性が強調されており,この教育への公平なアクセスには学校を基盤とする教育が最も適切であるとされる1).この教育は,若者が健康的な意思決定を行い,性と生殖に関する健康を促進するための知識とスキルを身につけることを目的としている.
    • 国際的な枠組みとして,ユネスコやWHOは,文化的に適用可能な教育フレームワークを提供し,性行動のリスクを減少させ,性感染症(STI)やHIV/AIDSの予防を目指している2)
    • 包括的な性教育(CSE:Comprehensive Sexuality Education)は,若者の性と生殖に関する健康を向上させるための重要な手段とされており,学校がこの教育を提供する中心的な役割を果たすことが期待されている.
    • このような教育の実施には,政府の政策や社会的規範,文化的信念,カリキュラムの不備,教師の訓練不足など,様々な障壁が存在し,政策立案者,教育者,医療専門家,コミュニティが協力して,学校のカリキュラムを強化し,社会文化的に敏感な教育アプローチを促進することが求められている.
  • 2)わが国の包括的性教育

    • わが国では,かつて学習指導要領にいわゆる“歯止め規定”(例:小学校理科「受精に至る過程は取り扱わないものとする」,中学校保健体育「妊娠の経過は取り扱わないものとする」など)が設けられていた.平成29年(2017年)告示の中学校学習指導要領などを含む改定の中で,文部科学省は「歯止め規定を原則削除する」方向での見直しを示し,教育内容の柔軟化が進められている.この改定を契機として,文部科学省は小・中・高等学校向けに『「生きる力」を育む保健教育の手引き』を公表し,「生命を尊重する態度の育成」や「生物的・心理的・社会的側面を含む人間の性の理解」などを重視した包括的な保健教育を推進している.これにより,生涯にわたり性に関する課題に対して責任ある行動がとれるよう,人間の性を多面的にとらえる教育の充実が図られた.しかし,地域・学校ごとの運用に差があり,実際の授業での取り扱い方には教育現場の判断に任されている(図15)
    • 性に関する指導について
    • 世界の性教育の指針とされる「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」とわが国の「学習指導要領」を比較・参照し,生命(いのち)の尊さと大切さ,過去から現在,未来への生命(いのち)のつながりを学び,医学的・科学的な知識を基に,健康教育学習を進める教材もわが国で作成して活用されている.
    • 5~8歳の小児期は,男女がそれぞれ生まれ持った性の特徴で異なった変化をすることを知り,自分と他者のからだとこころの健康意識を高め,9~15歳の思春期には思春期以降に起こる変化や人間関係の変化を具体的に示している4)
    • 現実として,思春期の子どもが性に関する情報を得る手段は,友人や,マンガや雑誌,インターネットも多く,家族や教師からというのは少ない.ネット社会では,子どもの性情報環境にも大きな影響を与え,性犯罪の大きなリスクとなっている.
  • 3)医療者の行う性教育

    • わが国の『産婦人科診療ガイドライン婦人科編2023』においては,「CQ404 緊急避妊法の実施法とその留意点は?」「CQ429 パートナーからの暴力を疑った時の対応は?」「CQ430 性暴力を受けた女性への対応は?」「CQ431 性虐待が疑われる女児への対応は?」など,ことが起きてからの対応については丁寧な解説,対応,注意点が記載してある.また,「CQ401 低用量経口避妊薬(OC)を処方するときの説明は?」「CQ403 子宮内避妊用具(IUD)の適切な装着方法は?」など,避妊の必要性を知った患者が来院した時の対応の記載がある.CQ101~112では各種性感染症の治療やスクリーニングについて記載がある.
    • 婦人科受診は敷居が高いといわれ続けているが,望まない妊娠や性感染症で来院したのであれば,まず受診したことに関して患者,家族を褒めてあげるべきであり,診療の手元に「産婦人科医向けの性教育用スライド」5)を準備し,同世代の状況を説明することも大切である.そしてその患者も含め,周囲へ婦人科受診の必要性を周知すること,これこそが産婦人科の診療の中で思春期からできるプレコンセプションケアではないかと考える.
    • わが国ではリプロダクティブヘルス全般に対する低い関心と低いヘルスリテラシーの改善の必要性も指摘されており,その対策として最近では学校教育の中に専門医派遣事業が行われている.
    • ことが起こってからではなく,自ら危険を回避,予防のできる知識を教え,ウェルビーイングの実現のために自己決定をできるように導く力を育むことが,包括的性教育強化の一助になると考える.

参考文献

  • 1)Walker R, et al. School-Based Education: An Opportunity to Promote Equitable Access to Sexual and Reproductive Health Knowledge. Semin Reprod Med. 40(3-04): 193-198, 2022
  • 2)Goldman JDG, et al. School-based reproductive health and safety education for students aged 12-15 years in UNESCO’s (2009) International Technical Guidance. Cambridge Journal of Education. 445-461, 2012
  • 3)文部科学省.学校における性に関する指導について(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000838180.pdf)(最終アクセス日 2025年4月5日)
  • 4)文部科学省.性犯罪・性暴力対策の強化について(https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index.html)(最終アクセス日 2025年4月5日)
  • 5)日本産婦人科医会.産婦人科医向けの性教育用スライド「思春期って何だろう?性って何だろう?」2024年改訂(https://www.jaog.or.jp/about/project/document/shisyunnki2024/)(最終アクセス日 2025年4月5日)