(1)有害な薬品(化学物質)を避ける
ポイント
- 現在の生活で有害な薬品(化学物質)の曝露をゼロにすることはできない.
- 職場や家庭において有害な薬品(化学物質)への曝露を最小限にする方法を知っておく.
- 有害な薬品(化学物質)への曝露が必ずしも直ちに有害な影響が出るとは限らない.
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1)有害な薬品(化学物質)とは?
化学物質は,食品類,農薬・殺虫剤・肥料,衣料品,自動車,洗剤・化粧品,家電製品,医薬品,塗料や接着剤など身の回りの様々な物に含まれており,知らず知らずのうちに日常生活の中で化学物質の曝露が起こっている.化学物質は日常生活を豊かにする一方,人への曝露によって健康影響が懸念される物質も多くある.よく知られているのは,ダイオキシン類などの内分泌かく乱物質であり,PCB(ポリ塩化ビフェニル)や有機塩素系農薬とともに日本での使用は完全に禁止されている.一方,BPA(ビスフェノールA),フタル酸エステル,PFAS(有機フッ素化合物),トリクロサン,パラベン,紫外線吸収剤などは人体への影響が懸念されているものの化学的知見が不確実であり一部制限にとどまっている物質もある.内分泌かく乱物質以外にも,2006年に印刷工場で働いていた従業員に胆管がんを発生させた1,2-DCP(ジクロロプロパン)1)のように,人体への影響がまだ明らかとなっていない化学物質が多数ある.将来の妊娠のための健康管理として,妊娠前から有害な薬品の曝露を避けることが推奨されている.
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2)職場において有害な薬品(化学物質)を避けるには?
美容業では酸化染毛剤のp-フェニレンジアミン2),建築解体業ではアスベスト,医療現場ではホルマリンというように化学物質に曝露するリスクは職場特有で異なる.プレコンセプションケアの観点から特に「化学物質取扱い業務」,「有害物質取扱い業務」や「危険物取扱い業務」に従事する場合は注意が必要となる.業務を開始する前に,労働安全衛生法による特別教育を受け,リスクアセスメントの実施,個人防護具の使用,換気設備の確認,代替物質の使用などを再度確認する必要がある.
- ①リスクアセスメントの実施:職場で使用される化学物質の種類や曝露経路を把握し,リスクを評価する.
- ②適切な個人防護具の使用:手袋,マスク,ゴーグル,防護衣などを着用し,皮膚や吸入による曝露を防ぐ.
- ③換気設備の整備:局所排気装置や安全キャビネットを使用し,有害物質の拡散を防ぐ.
- ④代替物質の使用:可能であれば,より安全な代替物質への変更を検討する.また具体的に妊娠を計画している場合,そのことを上司や産業医に相談し,必要に応じて職務内容の変更や配置転換を検討することも重要である.
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3)家庭において有害な薬品(化学物質)を避けるには?
家庭内では,日常的に使用するプラスチック製品,化粧品,食品添加物,防虫剤,塗料などに,人体への影響が懸念される化学物質が含まれている場合がある.プレコンセプションケアの観点から家庭において以下のような対策が必要となる.
- ①プラスチック製品の安全な使用:成分表示に注意し,BPAやフタル酸エステルといった有害物質が記載されている場合は,指定された使用方法を守る.
- ②化粧品/日焼け止めなどの成分確認:パラベン,トリクロサンなどの有害物質が含まれていない無添加製品を選ぶ.
- ③防虫剤/芳香剤の使用に注意:ナフタレン,パラジクロロベンゼンを使用した防虫剤や合成香料,フタル酸エステルなどの成分が含まれる芳香剤の過剰使用は避ける.
- ④スプレー製品/塗料/接着剤使用後の適切な換気:揮発性有機化合物(VOC)が含まれているため,DIYなどで使用した際には適切な換気が必要となる.
- ⑤食品の安全性に配慮:農薬,食品添加物,保存料などの摂取を避けるため食材は流水でよく洗う.
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4)曝露が直ちに影響を生じるわけではない
化学物質への曝露があった場合でも,必ずしも直ちに有害な影響が出るとは限らない.曝露の影響は曝露量,期間,物質の種類,感受性などに左右されるため,閾値以下の曝露では有害性が認められないことも多い.特に妊娠中の曝露では,不安を抱える患者も多いため,個別のリスク評価に基づいた冷静な対応が重要となる.
参考資料
- 1)厚生労働省.「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」報告書(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002x6at-att/2r9852000002x6zy.pdf)
- 2)石橋桜子,他.美容関係労働者の化学物質曝露.産業医学ジャーナル Vol.47 No.6,2024