(2)環境因子と生殖

ポイント

  • ヒトの生殖機能に化学物質への曝露が関与している可能性があることを考慮す る.
  • 1)化学物質曝露とヒト生殖機能との関連に関する研究

    • 化学物質の中には,内分泌かく乱物質(ヒトの性ホルモン(エストロゲンおよびアン ドロゲン)作用,あるいは,性ホルモン受容体に結合して作用を阻害する働きを示 す化学物質)があり,妊孕力低下に影響を与えている可能性が示唆されている.
    • ヒトの妊孕力の指標として受胎待ち時間(カップルが避妊をやめてから妊娠するま でにかかった時間,この時間が長いほど妊孕力が低いと考える),男性側の生殖指 標として精液指標が挙げられる.
    • 一方で,女性側の生殖指標として適切な指標は示されていないが,近年の研究では, 月経周期や血中抗ミュラー管ホルモン濃度を用いた研究が散見される.

    本章では,これらの指標と環境化学物質曝露との関連に関する最近の研究レビュー からいくつか紹介する(表5)

  • 2)化学物質

    • ポリ塩化ビフェニルは,化学的に安定かつ難分解性という特徴をもっており,変圧 器など様々な場面で使用されてきた.油症事件の報告から健康影響が明らかとなり, 現在では製造および使用が禁止されている.
    • TCDD(2 ,3 ,7 , 8 ,tetrachlorodibenzo-p-dioxin)は,ダイオキシンの一種であり,毒性 が強いことで知られている.環境中への残留性が高く,ヒトが曝露すると脂肪に蓄 積する性質をもつ.
    • ポリ臭化ジフェニルエーテルは,難燃剤の1つであり,プラスチックや繊維などに 添加されて,様々な製品に使用されている.
    • PFAS は,有機フッ素化合物のうち,ペルフルオロアルキル化合物およびポリフル オロアルキル化合物の総称であり,PFAS の一部は,撥水ポリマーの材料や撥水ス プレーなどや泡消火剤等,様々な製品に用いられている.

    一部の PFAS や以下の化学物質は,体内蓄積性は低いものの,日常的に曝露して いる可能性が高く,曝露影響が懸念される.

    • ビスフェノール類は,プラスチックの原料として様々な製品に使用されている. ・フタル酸エステル類は,プラスチックを柔らかくするための可塑剤として使用され ている.
    • パラベン類は,化粧品などのパーソナルケア製品などに防腐剤として使用されている.
    • ベンゾフェノンは,紫外線を吸収する性質があり,日焼け止めとして用いられている.
    • トリクロサンは,抗菌剤の1つであり,市販の薬用石鹸などに使用されてきた.
    • 2016 年にアメリカでトリクロサンが含まれる製品の販売禁止が発表されて以降, 日本でも製品の販売を停止するよう促している.

    以上の研究結果については,研究対象集団が変わると関連なしとなることもあり, 結果に一致をみていない.結論を導くためには十分なデータ数とはいえず,今後さら なるデータの蓄積が必要である.

    化学物質曝露とヒトの生殖能力との関連
    続き

参考資料

  • 1)Hong X, et al. The current situation and future directions for the study on time-to-pregnancy: a scoping review. Reprod Health. 19 : 1- 8 , 2022
  • 2)Siegel EL, et al. Indoor and outdoor air pollution and couple fecundability: a systematic review. Hum Reprod Update. 29 : 45 – 70 , 2023
  • 3)Ding T, et al. Endocrine disrupting chemicals impact on ovarian aging: Evidence from epidemiological and experimental evidence. Environmental Pollution. 305 : 119269 , 2022
  • 4)Knapke ET, et al. Environmental and occupational pesticide exposure and human sperm parameters: A Navigation Guide review. Toxicology. 465 : 153017 , 2022
  • 5)Kahn LG, et al. Endocrine-disrupting chemicals: implications for human health. Lancet Diabetes Endocrinol. 8 : 703 , 2020