(1)肥満
ポイント
- 妊娠前の肥満は,妊娠合併症,児の肥満のリスクを増加させる.
- 妊娠を希望する成人女性だけでなく,小児・思春期から肥満女子への生活指導を始めることが望ましい.
- 肥満に対するプレコンセプションケアは,肥満の世代間悪循環を断つことにつながる.
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1)肥満に対するプレコンセプションケアの意義
妊娠前女性への肥満予防指導あるいは肥満治療の主な目的は,以下の3点である.すなわち,①肥満妊婦の健康障害を予防すること,②出産後の母体の肥満による健康障害を予防すること,③出産した児の肥満を予防することである.
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2)妊娠前の肥満から始まる妊婦合併症と肥満の世代間悪循環
妊娠前の肥満では,非肥満に比し,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,巨大児,帝王切開,産褥期出血などのリスクが高くなる1).肥満妊婦では,母体から過度なブドウ糖や遊離脂肪酸が胎児へ供給され,胎児の膵β細胞から過度のインスリンが分泌されるため高出生体重児になりやすい.これをPedersen仮説と呼ぶ2).このようにして出生した高出生体重児は,小児期,思春期に肥満になりやすい3).そして思春期肥満の約70%は,成人の肥満に移行する.このように,妊娠前の肥満は,妊娠合併症のリスクを高めるだけでなく,肥満の世代間悪循環を進めてしまう.したがって,肥満に対するプレコンセプションケアは,この悪循環を断つことにつながる4).
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3)小児・思春期の肥満の問題
小児肥満の中で,肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか,その合併が予測される場合で,医学的に肥満を軽減する必要がある状態を小児肥満症という.その診断基準に含まれる肥満に伴う健康障害として,①高血圧,②睡眠時無呼吸症候群など換気障害,③2型糖尿病・耐糖能障害,④内臓脂肪型肥満,⑤早期動脈硬化,⑥非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD),⑦高インスリン血症かつ/または黒色表皮症,⑧高TC血症かつ/または高non HDL-C血症,⑨高TG血症かつ/または低HDL-C血症,⑩高尿酸血症がある.参考条項として,①皮膚線条などの皮膚所見,②肥満に起因する運動器機能不全,③月経異常,④肥満に起因する不登校,いじめなどがある5).小児といえども肥満が心身への健康障害を起こす.そして,多くの場合,成人の肥満症へ移行する.
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4)成人の肥満症
肥満があり,肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか,その合併が予測され,医学的に減量を必要とする病態を肥満症と定義する.その健康障害には,①耐糖能異常,②脂質異常症,③高血圧,④高尿酸血症・痛風,⑤冠動脈疾患,⑥脳梗塞・一過性脳虚血発作,⑦非アルコール性脂肪性肝疾患,⑧月経異常,女性不妊,⑨閉塞性睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群,⑩運動器疾患(変形性関節症・膝関節,股関節,手指関節,変形性脊椎症),⑪肥満関連腎臓病が挙げられている6).このように肥満によって種々の健康障害が生じる.
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5)プレコンセプションケアとしての肥満対策
肥満は病歴が長いほど,重症化する傾向があるので,できるだけ早く指導介入した方がよい.小児期・思春期から肥満への指導介入することは,広義のプレコンセプションケアであり,重要である.具体的には,食事・運動・生活リズムなどの生活指導を行動療法という手法を用いて,実践させることである.食事療法として,食物繊維を増やし摂取カロリーを減らす.栄養バランスを整える.カロリーのある飲み物は極力控える.などである.運動療法として,VDT作業時間を減らし,できるだけ多く歩行する.生活リズム指導として,早寝,早起き,朝ごはんの励行などである.そして,体重や食事内容などをセルフモニタリングすることが有効である.このような指導で妊娠前までに,肥満を改善することが望ましい.しかし,生活習慣が改善しただけでも,将来的に効果があると考えられる(図24).
文献
- 1)Enomoto K, et al. Pregnancy Outcomes Based on Pre-Pregnancy Body Mass Index in Japanese Women. PLoS One. 11(6): e0157081, 2016
- 2)Catalano PM, et al. Is it time to revisit the Pedersen hypothesis in the face of the obesity epidemic?. Am J Obstet Gynecol. 204(6): 479-487, 2011
- 3)Lowe WL, et al. Association of Gestational Diabetes With Maternal Disorders of Glucose Metabolism and Childhood Adiposity. JAMA. 320: 1005-1016, 2018
- 4)菊池透.小児・思春期から始める母児のhealthy life cycle.妊娠と糖尿病 25(1): S-1-S-3,2025
- 5)日本肥満学会編.小児肥満症診療ガイドライン 2017.ライフサイエンス出版.ⅸ,2017
- 6)日本肥満学会編.肥満症診療ガイドライン 2022.ライフサイエンス出版.1-7,2022