(1)遺伝的要因
(1)遺伝的要因
ポイント
- 保因者診断は発端者の遺伝学的検査による病的バリアントの同定が前提となる.
- 遺伝形式に応じた保因者の把握と,de novo変異や性腺モザイクの可能性も考慮する.
- 保因者診断には心理社会的側面も含めた遺伝カウンセリングが不可欠である.
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1)遺伝的要因とは
- プレコンセプションケアにおいて遺伝的要因に対応するためには,遺伝性疾患の発端者を含む家族構成の状況を,女性(またはカップル)ごとに正確に把握することが重要である.
- 発端者の臨床診断で遺伝性疾患の病名が付けられていたとしても,“遺伝性”には,遺伝子や染色体が関係するという意味の“遺伝性(genetic:遺伝子レベルで決まり遺伝子に由来する)”として用いられる場合と,親子代々に伝わる“遺伝性(hereditary:親から子へと遺伝され受け継がれる)”として用いられる場合の二通りがある.
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2)発端者の遺伝学的検査
- カップルを含めた家系における発端者に対して遺伝学的検査が実施され,その結果が発端者のもつ症状と合致し,表現型と遺伝型の因果関係(phenotype-genotype correlation)が説明可能である場合に,
- 初めて発端者の遺伝学的診断が確定する.
- この発端者の遺伝学的検査の情報がなければ3)に示す“保因者診断”も不可能となり,当該疾患が“遺伝性(hereditary)”であるか“遺伝性(genetic)”であるかを区別することはできない.
- ひいては相談に来たカップルの次世代における発症リスクの推定も不可能である.
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3)カップルの保因者診断
- 「保因者」とは,通常,病的バリアントを保有していても症状が認められないか,あるいは症状が極めて軽微で本人に自覚がない者を指す.
- カップルのいずれかに遺伝学的検査により病的バリアントが確認されていても,既に発症している場合にはその人は「罹患者」である.
- カップルに対する保因者診断は,まず発端者に対する遺伝学的検査において病的バリアントが同定された後に,その情報をもとに実施され,以下のように分類される.
- ①両者が保因者である場合
- ②いずれか一方が保因者である場合
- ③女性が保因者である場合
- 発端者において同定された病的バリアントを,親世代であるカップルが保因していることを確認することにより,当該疾患が“遺伝性(hereditary)”疾患であることが確定する.
- 例えば,カップルの前児が発端者の場合でカップルに病的バリアントが確認できない場合には,罹患児はde novo(新規発生)であったか,カップルどちらかの性腺モザイクの可能性が考えられる(図8).

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4)海外における保因者スクリーニング
海外においては,特定の民族において創始者効果が高いことが知られている疾患に関して,近親者に罹患者がいない場合でも保因者診断(保因者スクリーニング)が行われることがあるが,わが国においては発端者が不在のカップルに対する保因者診断は一般的ではないのが現状である.
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5)プレコンセプションケアにおける保因者診断の遺伝カウンセリング
- 遺伝カウンセリングとは,“遺伝にかかわる悩みや不安,疑問などをもつ方々に,科学的根拠に基づく正確な医学的情報を分かりやすく伝えて理解を促すとともに,その上で,十分な対話の中で,自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決していけるよう,心理面や社会面も含めた支援を行うこと”であり,遺伝学的検査前のインフォームドコンセントではない.
- 発端者自身に対する遺伝学的検査は,臨床診断の精度向上や治療方針の選択など,本人に対する医療の一環として実施される.
- 一方,保因者診断は,次子における発症リスクの推定や,出生前遺伝学的検査・着床前遺伝学的検査の選択など,将来にわたる重要な意思決定を伴う場合があり,個人や家族に新たな課題をもたらす可能性がある.
- したがって,保因者診断を実施する際には,その意義と限界,並びに社会的・心理的影響を含めた遺伝カウンセリングが不可欠である.