(2)小児がん患者と小児がん経験者への対応
ポイント
- がん治療により妊孕性喪失の可能性があることや,妊孕性温存療法があること の情報提供を行い,意思決定を支援することが重要である.
- 月経が順調に再開したとしても,治療の内容によっては卵巣予備能が低下して 早期に閉経する可能性があることから,サバイバーシップ向上のためには産婦 人科医による小児科からの移行期医療が重要である.「月経の再開」=「将来 の妊娠・分娩が可能」とはならない.
- 小児がん経験者には,晩期合併症を考慮した妊娠・分娩管理,健診の推奨が重 要である.
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1)小児がん治療における妊孕性への影響と妊孕性温存療法
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①小児がん治療における妊孕性への影響
- 妊孕性(妊孕能)とは,医学的には“妊娠する能力”,“生殖能力”のことである.
- 一部のがん治療は妊孕能に影響を及ぼし,不妊や性ホルモンの分泌低下,早期閉経 なども惹起する場合がある.
- 小児のがんは,白血病,脳腫瘍,リンパ腫などの罹患率が高い.
- 造血細胞移植は,前処置として高用量のアルキル化剤による化学療法や全身放射線 照射が施行されることから,妊孕性に影響を与えるリスクが高い.
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②妊孕性温存療法
- 原則として,がん治療(原疾患の治療)が最優先されるべきであり,その治療を遅滞 なく遂行することが大原則となる.
- 疾患の重症度や治療内容,緊急性,生命予後などを考慮し,患者本人へのインフォームドアセントと家族へのインフォームドコンセントにより,十分な情報提供と意思 決定支援を実施した上で,妊孕性温存療法を行う.
- がん治療医,生殖医療医,看護師,臨床心理士,薬剤師,ソーシャルワーカー,チャ イルドライフスペシャリストなど多職種との密な医療連携が重要である.
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卵子凍結
- 卵胞刺激ホルモン(FSH:Follicle Stimulating Hormone)および黄体形成ホルモン (LH:Luteinizing Hormone)を含んだゴナドトロピン製剤による調節卵巣刺激で卵 巣内の卵胞を発育させ,採卵し,得られた卵子を凍結する.
- 成人においては確立された方法であるが,小児における卵子凍結はまだ研究段階の 方法である.
- 卵子を凍結するには,2~4週間の時間が必要である.
- 胚凍結と異なり,将来の婚姻関係に柔軟に対応できる.
- 原則的には経腟的操作が必要であるため,小児への適応が困難であるが,初経開始 以降の女児に施行できる可能性はある一方で,卵巣組織凍結を考慮してもよい.
- 胚(受精卵)凍結の融解胚1個あたりの妊娠率は約 20%程度という報告に対し,卵 子(未受精卵)凍結の融解卵子1個あたりの妊娠率は 4 . 5~12%であり,一般的に胚 凍結よりも卵子凍結の方が妊娠率は低く,さらに凍結あたりの生児獲得率は凍結時 の年齢に応じて低くなる.
- 妊娠率を考慮すると,少しでも数多くの卵子を凍結しておくことが最良である.
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卵巣組織凍結
- 卵巣組織凍結では,腹腔鏡手術を用いて卵巣組織の一部もしくは卵巣そのものを 摘出し,原始卵胞が存在する皮質(卵巣組織)を凍結する.凍結された卵巣組織は 原則として,原疾患の治療が終了し,寛解した後,一部融解された卵巣組織が 腹腔鏡手術によって患者に移植され,自然妊娠や生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)による妊娠が試みられる.
- 2019 年,それ以前まで研究段階とされていたが,欧米においては研究段階を脱した 確立された技術という見解となった.しかしながらわが国においては卵巣組織移植 については未だ研究段階の技術とされている.
- 卵巣組織採取は,月経周期に関係なく短期間に可能であり,初経開始前の女児にお いても施行可能な妊孕性温存療法となる.
- 対症疾患によって,微小残存病変(MRD:Minimal residual disease)のリスクがある.
- 移植する卵巣組織内に MRD が含まれている場合(造血器腫瘍や卵巣癌など),移植 時にがん細胞も体内に再移入してしまう可能性がある.移植組織の一部に病理組織 学的検査などの事前検査を施行した後に移植することになるが,現時点で凍結保存されるすべての卵巣組織を対象として事前検査で MRD を確認する手段はない.
- MRD を回避するため,卵巣内の未熟な卵胞を体外に取り出し,体外発育・体外成 熟させる技術や,人工卵巣シートに未熟な卵胞のみを加える技術など,新しい技術 が報告されつつある.
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2)小児がん経験者に対する対応
- 治療が終了した後,月経が順調に再開したとしても,治療の内容によっては卵巣予 備能が低下して早期に閉経する可能性があることから,サバイバーシップ向上のた めには産婦人科医による小児科からの移行期医療が重要である.
- わが国において,小児科から産婦人科間の移行期医療を実施している施設は 13% と報告されている.
- 小児がん経験者の妊娠において,がん治療による先天異常のリスクは増加しないと 報告されているが,一方で,がん治療が妊娠・分娩に影響を及ぼす可能性があるた め,患者ごとにリスクを評価する必要がある.
- 腹部・骨盤への放射線照射により,流早産,低出生体重児のリスクが増加すること が報告されている.
- がん治療により妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,妊娠貧血のリスクが高くなること が報告されている.
- アントラサイクリン系または胸部照射を受けた患者は心筋症発症のリスクがあるた め,がん経験者の妊娠・分娩管理は周産期専門施設で,腫瘍循環器診療とともに対 応すべきである.
- 一般的な晩期障害には,産婦人科関連以外にも,内分泌異常,心血管系疾患,骨疾 患,呼吸器機能障害,二次がんなどがあり,がん克服後には健診を促すことが重要 である.
- 患者教育として,欧州では小児がんや思春期がんを克服した患者の臨床歴をまとめ た Web ベースの SurPass(Survivorship Passport)がある.SurPass は,各がん経 験者の臨床歴の要約,がんや受けた治療に関する詳細な情報,個別のフォローアッ プとスクリーニングの推奨事項を提供している.
- 米国においても小児がん経験者に 対し治療歴や長期間のフォローアップが必要なことを教育するためのツールとして,クレジットカードサイズのパスポートを配布することが試みられている.
- わが国に おいてもツールの開発が望まれる.
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