(2)わが国における SRHR の諸問題~セクシュアル・ライツについて~

(2)わが国における SRHR の諸問題~セクシュアル・ライツについて~

ポイント

  • 最高裁は性別不合当事者の戸籍の性別変更のための生殖不能要件を違憲とした.
  • 米国・欧州生殖医学会は,性的指向,性自認などにより生殖医療の提供を制限すべきではないとしている.
  • 包括的性教育の8つのキーコンセプトに,「ジェンダーの理解」がある.
  • 1)性同一性障害特例法と生殖医療

          2004年から施行された「性同一性障害特例法」は,トランスジェンダー(性別不合)当事者の戸籍の性別変更を可能とし,結婚例も増加した.2025年10月現在の要件は,①18歳以上(年齢要件),②婚姻をしていない(婚姻要件),③未成年の子がいない(子なし要件),④生殖機能を永続的に欠く(生殖不能要件),⑤他の性別の性器に近似する外観(性器の外観要件)となっている(④⑤を合わせて「手術要件」と呼ばれる).
          しかし,この法律は,性と生殖に関する健康と権利(SRHR)に関する課題を抱えている.男性として女性と結婚後,性別適合手術を受けたトランスジェンダー女性が,妻との婚姻を継続したままで戸籍上の性別を女性に変更するように申し立てたが,2020年,最高裁は婚姻要件を違憲とは認めなかった.
          2014年,国連諸機関はSRHRの視点から,戸籍の性別変更のために生殖機能をなくす手術を強制することは人権侵害とした.スウェーデンでは,2013年,生殖不能要件を削除,2018年には,法改正前に手術を受けざるを得なかった人々に国が補償するとしている.
          日本においては,トランスジェンダー女性が手術をせずに性別変更を求めた裁判で,2023年,最高裁は生殖不能要件を違憲としたが,性器の外観要件への判断はしなかった.現状,トランスジェンダー男性では男性ホルモン療法による外性器の男性化により性別変更が認められているが,トランスジェンダー女性では個別判断となっている.さらに,2025年には医学的理由などでホルモン療法や手術療法を行っていないトランスジェンダー当事者が性別変更を認められており,法改正の議論が急がれる状態となっている.

  • 2)LGBTQ当事者と生殖医療による家族形成

        米国生殖医学会(ASRM)や欧州生殖医学会(ESHRE)は,性的指向,性自認,婚姻の状態(独身かどうか)により生殖医療の提供を制限すべきではないとしている.しかし,現在,日本産科婦人科学会が認めているのは,トランスジェンダー男性が女性と結婚し,妻が提供精子による人工授精(AID)を受ける場合のみである(2013年,最高裁も父子関係を認めた).しかし,日本においても,トランスジェンダー男性の凍結卵子と提供精子による体外受精後,パートナーへ胚移植するクロスオーバー体外受精(cross-over IVF)も行われている.トランスジェンダー女性が,性別適合手術を受け戸籍の性別を男性から女性に変更するとともに,自身が凍結保存していた精子を用いて生殖医療を実施し,パートナー女性が妊娠,出産した例では,2024年,最高裁は父子関係を認めた.2025年2月に国会に提出された特定生殖補助医療法案では,提供精子・卵子による生殖医療の利用は法的な夫婦に限定するとしている(その後の6月には廃案となった).しかし,日本においても,レズビアン女性や独身女性などがAIDにより子どもを持つ例は少なくない.精子ドナーの不足に加え,罰則規定により医療施設でのAIDを禁止された場合,SNS上での精子取引などに向かう可能性があり,医学的・社会的リスクが懸念されている.

  • 3)LGBTQの子どもがライフプランを立てることができる社会

        トランスジェンダー男性が男性パートナーとの間で妊娠し子どもを持つ例も知られている.また,ゲイ男性とレズビアン女性との「友情結婚」,さらに,トランスジェンダーやLGBTQフレンドリーな異性愛の人々も加わり「選択的協働親(elective co-parenting)」としてグループで妊娠や子育てにかかわる例もある.「里親」や「特別養子縁組(婚姻が必要)」で子どもを持つLGBTQ当事者も見られる.このように「性の多様性」と「家族の多様性」は密接に関連している.2018年の改訂『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』では,包括的性教育の8つのキーコンセプトに「ジェンダーの理解」が加わり,性教育で「性の多様性」を取り扱うことも増えている.また,2023年,「LGBT理解増進法」が成立したことで,日本の変化が期待されている.日本が,LGBTQ当事者のSRHRを守り,LGBTQの子どもがライフプランを立てることができる社会になるためには,「法律や制度の整備」と,それを作り実践する「国民の理解」が必要になる.

文献

  • 1)中塚幹也.LGBT当事者とリプロダクティブ・ヘルス/ライツ.法律時報.96:61-64,2024 61