(2)妊娠と嗜好品(タバコ・カフェイン・アルコール)

ポイント

  • 妊婦の能動および受動喫煙により,先天異常,流産,低出生体重児などのリスクが増加する.
  • 特に妊娠中の曝露では,不安を抱える患者も多いため,物質の種類や曝露量といった個別のリスク評価に基づいた冷静な対応が重要となる.
  • 妊婦の飲酒により,胎児性アルコール・スペクトラム障害が起こりやすく,胎児発育不全,流産のリスクも増加する.
  • タバコ・カフェイン・アルコールにより,男女とも不妊リスクが高まり,妊娠判明時に器官形成期が過ぎていることも多いため,妊娠を希望している場合は,妊娠前から中止しておく.
  • 1)タバコ

    • 喫煙は生殖能力にも重大な悪影響を及ぼすこと,女性および男性の不妊症の原因になることも多く報告されている1-3).動物実験において,ニコチンは濃度依存性に排卵を抑制する作用があることが報告されている4)
    • 妊娠中の能動喫煙だけでなく,受動喫煙でも,流産,死産,早産,胎児発育不全,低出生体重児,先天異常,乳幼児突然死症候群のリスクが増え,その発生率は1日の喫煙本数に比例するといわれている5,6)
    • また,新型タバコが紙巻タバコより健康リスクが低いという証拠はなく使用は推奨されていない.
    • 禁煙のための補助剤としてニコチンパッチ・ガムなどのニコチン代替薬(NRT)があるが,妊婦・授乳婦には使用禁忌とされている.また,内服薬(バレニクリン酒石酸塩)はニコチンを含まない禁煙補助薬として妊娠中の使用は有益性投与であるが,胎児に関する安全性は確立していないことより,妊娠前にNRTや内服薬を用いて禁煙しておくことを強く勧める.
    • また,パートナー,同居家族も一緒に禁煙することを勧め,職場などの環境にも注意が必要である.
  • 2)カフェイン

    • 動物実験で250㎎/㎏のカフェインを腹腔内投与した結果先天異常が生じたという報告7)があるが,これはヒトが食品や飲料から摂取する量をはるかに超えている.
    • ヒトにおいて,妊娠中のカフェインの摂取により先天異常発生のリスクを若干高める8),流産と関連がある9)という報告がある.
    • アルコールや喫煙などの交絡因子の調整が困難であるが,推定カフェイン摂取量が500㎎/日を超えると,妊娠第1三半期の流産との関連がみられた10)
    • メタアナリシスで妊婦のカフェイン摂取が低出生体重児,小児期の肥満・過体重と関連していたが11),システマティックレビューで,日常的なカフェイン摂取(コーヒー3杯/日以下)と流産や催奇形性との関連はみられなかった12)
    • 今までの研究を総合的に検討すると,妊娠中のカフェイン摂取量を1日約300㎎に制限することが推奨される13)
    • 妊娠中のカフェイン摂取量に関しては,世界保健機関(WHO),カナダ保健省(HC)では,300㎎/日までを勧め,英国食品基準庁(FSA)は200㎎までに制限するよう求めている14)
    • カフェインはコーヒーだけでなくお茶(特に玉露)や栄養ドリンクなどにも多く含まれており,片頭痛の治療薬(キサンチン系薬剤)としても使われているので,妊娠を希望する場合は注意する必要がある.飲料中のカフェインの含有量は製品によりばらつきがあるが,おおよその目安を表4に示す15)
    • 種々の飲料 100g 中のカフェイン含有量
  • 3)アルコール

    • 女性の生殖能力に対するアルコールの影響は明確にされていないが,不妊リスクの増加や妊娠が減少する傾向がみられるなど,有害な影響があることが示唆されている1,16)
    • また,男性の慢性的なアルコール依存症では,精子の数・運動性・形態スコア,精液量,血清テストステロン値の減少と関連しており,重度の飲酒者のパートナーは軽度の飲酒者や非飲酒者のパートナーより妊娠までの期間が長かった調査研究もある1)
    • 1週間に5杯以上のアルコールを摂取する女性は,第1三半期における自然流産のリスクが増加していた17)
    • 妊娠中に飲酒した女性から生まれた子どもには,①胎児発育遅延,②中枢神経障害(神経学的異常,発達遅延,知的障害),③特徴的な顔貌(短い眼瞼裂/薄い上唇/浅い鼻唇溝,小頭症,小眼球症)という3つの徴候が見られることが知られており,「胎児性アルコール症候群」と呼ばれている.
    • 特徴的な顔貌がなくても,胎児期のアルコール曝露によると思われる中枢神経の問題(刺激への過反応・注意力の問題・変化への適応困難・学習障害・判断力の問題などの行動障害)やからだの障害(関節の形成異常・心疾患18)など)も指摘されており,「アルコール関連神経発達障害」や,「アルコール関連先天性障害」などの診断名が使われるようになった.
    • これらを総称して「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)19)」という.
    • 胎児へ影響を及ぼす飲酒量や飲酒時期,摂取する酒の種類による安全域はないと考えられている.
    • また,FASDが生じた後の治療法もないため,妊娠を希望する場合や妊娠の可能性が少しでもある場合は妊娠前からの禁酒が望ましく,妊娠判明後はアルコールを一切避け,禁酒を継続することが必須といわれている.

参考文献

  • 1)Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine and the Practice Committee of the Society for Reproductive Endocrinology and Infertility. Optimizing natural fertility: a committee opinion. Fertil Steril. 117(1): 53-63, 2022
  • 2)Augood C, et al. Smoking and female infertility: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod. 13(6): 1532-1539, 1998
  • 3)Harlev A, et al. Smoking and Male Infertility: An Evidence-Based Review. World J Mens Health. 33(3): 143-160, 2015
  • 4)神谷敬雄,他.ラット卵巣における排卵誘発効果に及ぼすニコチンの影響.産婦人科の進歩.46(6):698-705,1994
  • 5)Zheng Z, et al. Congenital malformations are associated with secondhand smoke among nonsmoking women: A meta-analysis. Birth. 46: 222-233, 2019
  • 6)Mitchell EA, et al. Risk factors for sudden infant death syndrome following the prevention campaign in New Zealand: a prospective study. Pediatrics. 100(5): 835-840, 1997
  • 7)Nishimura H, et al. Congenital malformations in offspring of mice treated with caffeine. Proc Soc Exp Biol Med. 104: 140-142, 1960
  • 8)Williford EM, et al. Maternal dietary caffeine consumption and risk of birth defects in the National Birth Defects Prevention Study, 1997-2011. Birth Defects Res. 115: 921-932, 2023
  • 9)Srisuphan W, et al. Caffeine consumption during pregnancy and association with late spontaneous abortion. Am J Obstet Gynecol. 154: 14-20, 1986
  • 10)Cnattingius S, et al. Caffeine intake and the risk of first-trimester spontaneous abortion. N Engl J Med. 343: 1839-1845, 2000
  • 11)Jin F, et al. Association of maternal caffeine intake during pregnancy with low birth weight, childhood overweight, and obesity: a meta-analysis of cohort studies. Int J Obes(Lond). 45: 279-287, 2021
  • 12)Brent RL, et al. Evaluation of the reproductive and developmental risks of caffeine. Birth Defects Res B Dev Reprod Toxicol. 92: 152-187, 2011
  • 13)厚生労働省.食品に含まれるカフェインの過剰摂取について Q&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html)(最終アクセス日 2025年4月25日)
  • 14)文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
  • 15)Eggert J, et al. Effects of alcohol consumption on female fertility during an 18-year period. Fertil Steril. 81(2): 379-383, 2004
  • 16)Kesmodel U, et al. Moderate alcohol intake in pregnancy and the risk of spontaneous abortion. Alcohol Alcohol. 37: 87-92, 2002
  • 17)Zhang S, et al. Parental alcohol consumption and the risk of congenital heart diseases in offspring: An updated systematic review and meta-analysis. Eur J Prev Cardiol. 27: 410-421, 2020
  • 18)Williams JF, et al. Fetal Alcohol Spectrum Disorders. Pediatrics. 136: e1395-e1406, 2015