(3)ワクチン接種
ポイント
- プレコンセプションケアで問題となる感染には性行為感染と母子感染がある.正常な妊娠・出産を行うためには,これらの感染症を予防することが重要である.
- 女性の性感染症の罹患ピークはプレコンセプションケアの年代と一致するため,早期の教育啓発を行うことが必要である.
- ワクチンによって予防できる感染症は,風疹(MRワクチン),尖圭コンジローマ(4価,9価HPVワクチン),B型肝炎ウイルス(HBワクチン)が挙げられる.
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1 )プレコンセプションケアと感染症
図17に性行為感染の代表的な微生物と感染症の罹患年齢分布を示した.女性の場合は,性器クラミジア,性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,淋菌感染症,梅毒のいずれも10~30歳台までに罹患者が集中している1).一方,男性は20~50歳台に広く分布している.このため若年女性が主要な標的集団となっていることが分かる.女性の10~30歳台,特に20歳台は現代社会の妊娠・出産年齢のピークよりも若いため,感染後に妊娠年齢を迎えることになる.性感染症においても,女性の場合は罹患者が10~30歳台に集中している.これはプレコンセプションケアの対象年齢と重なっており,その予防,診断,治療を把握しておく必要がある.母子感染を引き起こす微生物には梅毒,性器ヘルペス,尖圭コンジローマ,性器クラミジアがある.最近は,母乳感染によって母子感染するHTLV-1も性行為感染によって男性から女性に感染することが問題となっている.これらのうち,ワクチンで予防できる感染症は,尖圭コンジローマ,B型肝炎ウイルスである.
一方,妊娠中に初感染が母子感染症のリスクとなるため,妊娠前に抗体保有者になっておくべき感染症として,風疹,麻疹,水痘が挙げられる.そのうち,風疹,麻疹はMRワクチンによって,水痘は水痘ワクチンによってそれぞれ感染予防抗体を獲得できることから,プレコンセプションケアとしてのワクチン接種が重要である.
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2)母子感染症とワクチン
ワクチンをはじめとする一次予防は,まさに妊娠前に介入すべきプレコンセプションケアである.表12にプレコンセプションケアとしての目的とワクチンの種類をまとめた.前述したようにがん予防,性感染症予防,母子感染予防という感染症を予防するための介入であり,その介入の有無によって,明らかにその女性やカップルの将来が変わってしまうことが証明されている.そのことをしっかり若い世代に伝えること,しかも思春期世代のうちに伝えることが理想的であろう.
母子感染は女性やカップルのみならず,将来の子どもたちに不利益を起こし得る疾病であり,プレコンセプションケアにおいて最重要課題といえる.近年,日本では母子感染症を起こす病原体に対する免疫をもたない妊婦の割合が増えており,妊娠中に初感染してしまうリスクが高まっている.これは子どもの頃に,感染する機会がなかったり,予防接種を受けなかったり,免疫がつかないまま成人になった女性が増えているからといわれている.そして,プレコンセプションケアという観点からは,妊娠中に母体が感染しないように,妊娠前,結婚前に免疫を獲得しておくことが重要である.
母子感染の原因病原体のうち,ワクチン接種によって予防可能なのは,風疹,インフルエンザ,水痘,B型肝炎ウイルス,ヒトパピローマウイルス(HPV)である.また,麻疹は流産の原因になり得る.サイトメガロウイルスは乳幼児の体液からの感染が多いことから,妊婦が十分な手洗い・うがいを励行することによって感染予防につながる.トキソプラズマは土いじり,生肉摂取,ネコ飼育などから感染するため,妊婦はこれらを控えることが望ましい.
風疹ワクチンについては,日本と世界でギャップがある.風疹は予防接種政策が度々変更されたために風疹抗体を有していない世代が存在する.風疹に対する「追加的対策」として,45~62歳の男性を対象に風疹抗体検査と(陰性の場合に)風疹ワクチンの接種を行い,この世代の風疹抗体保有率90%を目指す取り組みが実施された(2025年3月で終了)2).これによって,この世代の抗体保有率が88%に達し,一定の効果が得られた.しかし,プレコンセプションケアの観点からは生殖可能年齢以下の男女が,小児期から妊娠前に風疹ワクチン(MRワクチン)を漏れなく接種することを啓発する必要がある.
プレコンセプションとはいえないが,妊婦に接種して母体からの移行抗体で乳児を守る「母子免疫ワクチン」にも注目が集まっている.RSウイルス,百日咳はいずれも生後2カ月以内に主として家庭内から水平感染し重症化することが多いため,妊婦へのワクチン接種で生後6カ月までの乳児を守る効果が期待され,日本でも普及が進みつつある.
参考文献
- 1)国立感染症研究所.2019年感染症発生動向調査事業年報 (https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/10115-idwr-nenpo2019.html)
- 2)厚生労働省.令和6年度の「風しんの追加的対策」にかかる対応について (https://www.mhlw.go.jp/content/001313792.pdf)