(4)睡眠健康・睡眠衛生
ポイント
- プレコンセプションケアには,睡眠健康が欠かせない.
- 推奨される睡眠時間は青年期で8~10時間,成人で7~9時間である.
- 睡眠負債や生体リズムの乱れ(社会的ジェットラグ)はリプロダクティブ・ヘルスに悪影響を及ぼす.
- 光や温湿度に配慮した環境づくり,生活習慣の改善,嗜好品など,睡眠衛生に気を配ることが良い睡眠のためには必要である.
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1)睡眠健康
- プレコンセプションケアには,睡眠健康が欠かせない.睡眠健康とは,単に睡眠障害でない(睡眠に問題がない)という状態ではなく,質の良い睡眠を規則正しく十分に確保できており,昼間活動的に過ごせる状態を指す.
- 20~39歳男女において,睡眠時間が6時間未満の人の割合は約4割にのぼる1).
- 経済協力開発機構(OECD)の調査報告でも,日本人の平均睡眠時間は調査対象33カ国の中で最も短く,国民一人ひとりの十分な睡眠の確保は重要な健康課題といえる2).
- 米国睡眠財団が推奨する年齢別の必要睡眠時間は青年期で8~10時間,成人で7~9時間である(表8)3).
- 厚生労働省『健康づくりのための睡眠ガイド2023』では,成人においてはおおよそ6~8時間が適正な睡眠時間と考え,1日の睡眠時間が少なくとも6時間以上確保できるように努めることを推奨している2).

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3)社会的ジェットラグ
- 平日は,仕事や学校,家事などの社会時刻に合わせて起床する必要があり,睡眠負債が蓄積していく.そのため週末には,平日の睡眠負債を解消しようとして,朝寝坊をする人が少なくない.こうした平日と休日で睡眠のタイミングが異なる状況は,あたかも週末の夜に数時間の時差がある地域に西向き飛行をして,月曜日の朝に戻ってくる場合に生ずる時差ボケや時差障害と似ている.社会スケジュールによってもたらされる時差ボケ(睡眠と概日リズムの不一致)であり,社会的ジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼ばれる4).
- 社会的ジェットラグは,社会時刻を反映する平日と,生物時計(概日リズム)を反映する休日との睡眠中央時刻の差分で表される(図7).
- 日本人女子大学生において,社会的ジェットラグ1時間以上の者の割合は78.0%であった5).

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4)睡眠負債や社会的ジェットラグの健康への悪影響
- 睡眠不足は,日中の眠気や疲労に加え,頭痛などの心身愁訴の増加,情動不安定,注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下,学業成績の低下など,多岐にわたる影響を及ぼす6).
- 複数の自己申告に基づく調査研究から,7時間前後の睡眠時間の人が,生活習慣病やうつ病の発症および死亡に至るリスクが最も低く,これより長い睡眠も短い睡眠もこれらのリスクを増加させる6).
- 社会的ジェットラグは,短期的には作業能率の低下や昼間の眠気,ストレス反応,中長期的には生活習慣病リスクに関連する7).
- これまで夜勤や交代制勤務に従事する看護師などでは月経周期異常や月経痛の割合が高いことが知られていたが,1~2時間程度の社会的ジェットラグも,リプロダクティブ・ヘルスに影響する.
- 社会的ジェットラグ1時間以上の群では,1時間未満の群に比べて,月経随伴症状総得点が有意に悪く(p=0.025),下位項目では月経時の痛み,行動の変化,水分貯留に有意な差が認められた5).
- 社会的ジェットラグは不妊の一因となり得ることが,マウスを用いた動物実験によって示されている8).
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5)プレコンセプションケアのための睡眠衛生指導
①環境づくり
- 日中にできるだけ日光を浴びると,体内時計が調節される.
- 寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず,できるだけ暗くして寝る.
- 寝室は暑すぎず寒すぎない温度で,就寝の約1~2時間前に入浴し身体を温めてから寝床に入る.
- できるだけ静かな環境で,リラックスできる寝衣・寝具で眠る.
②生活習慣
- 休日に長時間の睡眠が必要な場合は,平日の睡眠時間が不足しているサインであり,平日に十分な睡眠時間を確保できるよう,睡眠習慣を見直す.
- 適度な運動習慣を身につける.
- しっかり朝食を摂り,就寝直前の夜食を控えると,体内時計が調整され睡眠・覚醒リズムが整う.
- 就寝前にリラックスし,無理に寝ようとするのを避け,眠気が訪れてから寝床に入る.
- 規則正しい生活習慣により,日中の活動と夜間の睡眠のメリハリをつける.
③嗜好品
- カフェインの摂取量は1日400㎎(コーヒーを700㏄程度)を超えると,夜眠りにくくなる.
- カフェインの夕方以降の摂取は,夜間の睡眠に影響しやすい.
- 晩酌での深酒や,眠るためにお酒を飲むこと(寝酒)は,睡眠の質を悪化させる.
- 喫煙(紙巻きたばこ,加熱式たばこなどのニコチンを含むもの)は,睡眠の質を悪化させる.良い睡眠のためには禁煙を目指す.
2)睡眠時間
①現状
②適正な睡眠時間の目安
文献
- 1)厚生労働省.令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42694.html).(最終アクセス日 2025年5月)
- 2)OECD Gender data portal.(https://www.oecd.org/gender/data/OECD_1564_TUSupdatePortal.xlsx)(最終アクセス日 2025年5月)
- 3)Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 1(1): 40-43, 2015
- 4)Wittmann M, et al. Social jetlag: Misalignment of biological and social time. Chronobiol Int. 23: 497-509, 2006
- 5)Komada Y, et al. Social jetlag and menstrual symptoms among female university students. Chronobiol Int. 36: 258-264, 2019
- 6)厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.健康・医療,睡眠対策.(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/suimin/index.html)(最終アクセス日 2025年5月)
- 7)三島和夫.社会的ジェットラグとは.睡眠医療.17:9-15,2023
- 8)Takasu NN, et al. Recovery from age-related infertility under environmental light-dark cycles adjusted to the intrinsic circadian period. Cell Rep. 12(9): 1407-1413, 2015