(3)生殖年齢女性の向精神薬の乱用,市販薬のオーバードーズなど

1 )若年女性の薬物乱用・依存

ポイント

  • 乱用は薬物使用上のルール違反であり,依存は薬物使用のコントロール障害である.
  • 若い女性で問題となる薬物は,ベンゾジアゼピン系鎮静薬,鎮咳剤や総合感冒薬などの市販薬である.
  • 患者の背景には人間不信や自己否定があり,信頼関係の構築が治療上重要である.
  • 薬物を無理にやめさせるのではなく,患者が困っていることの支援に焦点を当てる.
  • 治療への動機づけができれば,依存症治療を行っている精神科医療機関や精神保健福祉センターにつなげる.
  • ①病態

    • 薬物依存症とは,依存性物質を反復使用することで精神依存を来した状態であり,身体依存を伴うこともある.薬物に対する強い渇望があり,問題が生じてもコントロールできない.
    • 薬物依存には中脳の腹側被蓋野から側坐核に至るA10神経系が関与し,繰り返す薬物使用により脳内報酬系に異常を来す.
    • 本邦では覚せい剤やベンゾジアゼピン系鎮静薬(以下BZ)が主であるが,近年,処方薬や市販薬などの医薬品にシフトしており,女性ではこの傾向が特に強い.
  • ②診断

    • ICD-10では,①強い薬物使用欲求,②薬物使用のコントロール障害,③耐性,④離脱症状,⑤薬物中心の生活,⑥有害な問題があっても使用の6項目中,1年間のある時期に3項目以上を満たせば薬物依存症候群と診断される.
    • DSM-5では,依存と乱用を統合し「使用障害」としている.これは11項目中2項目以上を満たせば診断される.薬物問題があれば早期介入が大切である.
  • ③治療

    治療関係作り

    • 治療の成否は治療関係作りで決まる.患者に対して陰性感情や忌避感情を持たずに誠実にかかわる.断薬を強要したり,批判的態度をとることは避ける.薬物使用は症状であるという認識に立ち,患者が困っていることに焦点を当て,安心して思いを話せる関係を築く.

    治療の動機づけ

    • 治療の動機づけは重要である.両価的な思いを抱える患者に一方的に治療や断薬を押し付けると抵抗を強化してしまう.否認と対決せず,患者の「変わりたい」という思いを支援する.その際には,動機づけ面接や随伴性マネジメントが有用である.指導ではなく提案を,禁止ではなく懸念を伝える.

    治療プログラム

    • 行動修正プログラムは集団で行うのが基本である.ミーティング形式と,ワークブックを用いた認知行動スキルトレーニングが主である.は自助グループへの準備,後者は引き金となる要因の回避や欲求時の対処法習得を目的とする.そのほか,疾病教育,作業療法,運動療法,SSTなどがある.

    自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ

    • 自助グループの継続参加は有効であるが,容易ではないことが多い.多くの患者は対人関係に深刻な問題を抱え,孤独に薬物使用をしてきた.ナルコティックス・アノニマス(NA)などの自助グループや回復支援施設Drug Addiction Rehabilitation Center(ダルク)につながり,安心できる居場所と信頼できる仲間ができると人に癒され回復に向かう.

    薬物療法

    • 薬物使用欲求からイライラや衝動性が高まったり,うつ状態が遷延することがある.これらに対しては抗精神病薬や気分安定薬などを対症的に使う.不眠や不安の訴えも多いがBZの乱用・依存に注意する.
  • ④対応の留意点

    • 患者の多くは幼少時から逆境体験をもっており,人間不信や自己否定のため援助希求性が低い.薬物使用は,人に癒されない患者が,生きづらさに対して孤独に「自己治療」してきたと捉えられる.しかし,耐性により薬物の使用量や頻度が増し,行き詰まる.
    • 患者の回復には信頼に裏付けられた人からの癒しが必要である.治療者は患者を否定せず,陰性感情を持たずにかかわる.断薬を強要せず,患者の困っていることを支援する姿勢が大切である.人とつながり癒されて初めて薬物を手放せる.
    • 患者が受診に応じれば速やかに精神科に紹介する.問題が生じた時が介入の好機である.薬物依存を診る医療機関はきわめて少なく,紹介先がない場合は精神保健福祉センターにつなぐ.患者が拒む場合は家族だけでも相談につなげたい.
    • 乱用の多いBZでは出産直前の使用による新生児不適応症候群に注意を要するが,先天異常の発生は通常のリスクを大きく上回らず,授乳期の児への影響も大きくはないとされる.ただし,長期大量使用やほかのリスクの高い薬剤との併用には注意を要する.

文献

  • 1)Khantzian EJ, et al. Understanding addiction as self medication: finding hope behind the pain. Rowmen & Littlefield, Lanham. 2008
  • 2)成瀬暢也.ハームリダクションアプローチ やめさせようとしない依存症治療の実践.中外医学社.2019